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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1523号 判決 1981年4月16日

控訴人

河野豊四郎

右訴訟代理人

松本勝

被控訴人

加藤寛

右訴訟代理人

岩本義夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一深岩石約二五〇〇本をもつて築造された本件塀がもと訴外人の所有に属していたこと及び被控訴人が昭和五二年七月二〇日任意競売手続において本件土地を競落してその所有権を取得するとともに、本件塀についても、それは本件土地の定着物であるとして所有権の取得を主張していることは当事者間に争いがない。

二ところで、控訴人は、被控訴人の右競落に先立ち訴外人から本件塀に使用されている深岩石全部を動産として買い受け、占有改定によりその引渡しを受けたのであるから、右深岩石ないし本件塀の所有権は控訴人に帰属する旨主張するので、以下検討する。

<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  訴外人は、昭和三三年ころ本件土地上の居宅に居住し、鳥小屋を作つて山鳥の飼育を開始したところ、山鳥は体臭が強く野犬に襲われ勝ちであり、野犬は地下に穴をほつて小屋内の山鳥を襲うこともあつたため、主として野犬の侵入を防止する目的をもつて、右飼育開始後間もなく、塀の基礎として地中に穴を掘つて玉石を二段に埋め込み、これにコンクリートを流して土台を作り、その上に個々の深岩石を順次セメントで接着して四段ないし八段に積み重ね、ところどころに支え石を施して、本件土地及びこれに接続する畑一筆の上に本件塀を含む塀を築造した。本件土地五筆のうち三筆の地目は宅地で他の二筆の地目は畑であるが、その現況はすべて宅地となつており、右塀は一般の屋敷を囲む石塀とほぼ同様な状況となつている。

2  訴外人の山鳥飼育は順調に進まず、訴外人は、本件土地に抵当権を設定する等して資金をえていたが、昭和五〇年四月一日、控訴人に対し、本件土地及びこれに接続する畑一筆の上に築造された塀に使用されている深岩石全部(約五〇〇〇本)を、東洋孵卵器一台、孵卵室一棟等とともに代金一三〇万円で売り渡し、これらを控訴人から賃借使用していた。その後、前記のとおり被控訴人が本件土地を競落した(この点は当事者間に争いがない。)。右競売手続において本件土地の評価を命じられた宇都宮地方裁判所執行官岩村志郎は、本件塀は本件土地に付着するものとして、本件塀の価格を本件土地の評価額に加算し、その評価報告書に本件土地の周囲には石塀が存する旨明記し、被控訴人は、訴外人と控訴人との間の右売買を知らないで本件土地を競落し、昭和五三年一一月三〇日、その所有権移転登記を経由した。

3  深岩石は、大谷石より硬く、石塀、石蔵、土留工事等に使用されるものであり、深岩石を素材として築造された石塀等が取壊されて移築されることもないわけではないが、コンクリートの継ぎ目を玄翁で叩いて取壊す時深岩石の角を破損することもあり、いつたん築造された深岩石の塀が取壊されて移動されることは少ないのが実状である。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えす証拠はない。

三右認定事実によれば、本件塀に使用されている個々の深岩石は、本件塀の構成要素となり、全体として本件塀を構成し、また、本件塀は、本件土地に定着し、継続的に本件土地に定着させて使用することがその取引上の性質となつていると認められるから、本件土地を競落してその所有権取得登記を経由した被控訴人は、本件塀の所有権をも取得したというべきである。

ところで、控訴人が訴外人から本件塀を構成する深岩石全部すなわち本件塀を買い受けたことは先に認定したとおりであるから、控訴人は、訴外人との関係において本件塀の所有権を取得したものということができるが、右のとおり本件塀は土地の定着物であるから、立木法の適用を受けない立木と同様、明認方法を講じない限り、控訴人はその所有権取得を第三者に対抗することができないといわざるをえない。そして、本件塀の所有権取得につき明認方法を講じていないことは控訴人の自認するところであるから、控訴人は、本件塀の所有権取得をもつてこれを競落により取得した被控訴人に対抗することができない。

控訴人は、被控訴人は控訴人が本件塀の所有権を取得したことを知りながら木件土地を競落したから、明認方法を講ずることなくその所有権取得を対抗しうる旨主張するが、被控訴人が右事実を知つていたことを肯認するに足りる証拠はない。のみならず、仮に被控訴人がこれを知つていたとしても、そのことのみによつて直ちに被控訴人に対し、明認方法なしに本件塀の所有権取得を対抗しうることとなるいわれはないから、控訴人の右主張は採用することができない。

四以上によれば、控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れず、右と同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

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